里親のためのペアレントトレーニング

武田建・米沢普子 著
ミネルヴァ書房 刊
定価 2,000円+税
240P
2014年10月 発行


里親養育の実際とコーチングの心理学にもとづく子育ての視点から、
里親になる前に抱えやすい不安や、里親として子どもを受け入れた後に起こるであろう様々な課題・悩みへの
対処方法を優しく解説しています。
里親養育に頼もしい1冊です。日々の子育ての指針に、困ったときのヒントに、ぜひご一読ください。

1章から4章までを、多くの里親家庭の支援を行ってきたベテランケースワーカー米沢がその経験にもとづき執筆。
5章からはその養育に役に立つペアレントトレーニング、子育てにチョット疲れた時のリラックス法を武田が執筆。
里親家庭以外の子育てにも役に立つ一冊。

第1章 里親を必要とする子どもたち
第2章 里親になるということ
第3章 家庭への道…成長の中途からの養育の難しさ
第4章 子どもの成長こそが里親の喜び
第5章 親子関係の基本
第6章 誉められたことは、またやります
第7章 やって見せることはベストの教え方です
第8章 誉め方とその注意点
第9章 上手な叱り方
第10章 子育てに役立つ三つの魔法
第11章 しつけに困ったら
第12章 里親になるのも「少しずつ」


本書を推薦します
 芝野松次郎(関西学院大学 人間福祉学部教授・当協会理事長)

本書は、二人のマエストロの協働がもたらした貴重な産物である。

保護者に、子どもの成長の理解を促し、子育てに役立つ飾り気のない具体的な知識と技術をストレートに提供してくれる。

知識と技術だけではない。

子どもの『最善の利益』という概念を支える普遍的な価値を明らかにし、そうした価値の現れとして、保護者の子どもに接する姿勢をわかりやすく示してくれる。

著者のお一人、武田建先生は、筆者の恩師である。

先生は、行動理論の臨床を日本に紹介された先駆者の一人だが、精神分析理論に基づく援助方法の研究者であり実践家としても知られる。

その日本への導入においても先駆的に関わられ、後に行動理論に基づくアプローチと精神分析理論に基づくアプローチの折衷を試みられた。

本書の後半部分(5章から12章)は、折衷的な視点で臨床と研究を積み重ねて来られた膨大な成果が、誰にでもわかる平易な表現を用いて示されている。

もう一人の著者である米沢普子さんは、社会的養護における家庭養護と養子縁組の推進に貢献され、保護を必要とする子どもと里親、養親の支援に永年係わってこられた超ベテランのソーシャルワーカーである。

筆者からすると大学の大先輩になる。

安定した成長の場を求める里子と、そうした子どもに成長の場を提供し、育ての親になろうとする大人を結びつけ家庭を創造する「親子むすび」に半生を捧げてこられた。

そこでの豊富な経験が、本書の前半(1章から4章)において、米沢さんらしい気取らない語り口で語られている。

お二人ともその領域では押しも押されもしない第一人者であり、冒頭であえて「マエストロ」と呼ばせていただいた。

日本の社会的養護には、さまざまな理由で家庭にとどまれない子どもたちに、施設養護を中心として、安定した成長の場を提供してきた長い歴史がある。

しかし、今それが大きな曲がり角にある。
施設の小規模化、ユニット化により、より家庭に近い環境で子どもが成長できるよう、施設養護の形が変わりつつある。

同時に、里親やファミリーホームへの委託といった家庭養護を強化するための計画が都道府県や政令市において推進され始めている。

そうした取組では、里子の成長を援助する里親への手厚い支援が不可欠となる。

本書は、里親が子どもと接するときに直面するさまざまな困難に、親(保護者)としてどのように接していけばよいのかについて、その心構えと具体的な方法をわかりやすく示した書であり、里親としての行く道を照らす導きの書と言える。

米沢さんは、里親を必要とする子どもたちがおり、里親となりたいと思う人がいて、その出会いから、里親となりさまざまな試練と喜びを経験するプロセスを、具体的なエピソード織り交ぜながら、描き出す。

例をあげると、里子と生活して直面する最初の試練を描いた「最初の危機を乗り越える」(p.35)では、里親家庭のしつけの方針と子どもの要求のずれが描かれている。

里親、いや親になる過程に待ち受けている試練が随所に包み隠さず描き出される。

しかし、第4章「里子の成長は里親の喜び」(p.63)では、そうした試練の先に里子の成長を喜び合える日が来ることを示す。

試練と喜びを照らし出し、導くところに、本書の特徴がある。

武田先生は、こうした試練であり喜びともなり得る子育てを、子どもの成長を支える具体的な知識と技術として平易なことばを用いて示す。

その背景には研究に裏付けられた学習の仕組みや、臨床の積み重ねから生まれた精神分析的な理解、そして臨床心理学の知見や技術がぎっしりと詰まっている。

読者は、それをところどころに配されたコラムから垣間見ることができよう。

筆者がなるほどと思うのは、「叱り方」についての知識と技術に関する記述である。

ほぼすべての章において叱ることを真正面から取り上げ、「叱ってもいいのです」(p.102)とした上で、叱ることがもたらす負結果に触れられる。

そして、叱ることの短期的な効果に惑わされることなく、親が子どもにしてほしいと思う好ましい行動を言語化して伝え、子どもができるところから徐々に励ますことの重要性が示される。

子育ての難しさ対する親の弱音をしっかりと受け止め、親としての育ちの道が照らし出されている。

このように本書は、二人のマエストロによる夢のコラボレーションから生まれた書であり、いつまでも手元に置き、折に触れ読み返したい書であると思う。